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平成27年度第一回ADCA農業実践研修が開催される

私どもNPO法人イフパットはADCA(一般社団法人 農業開発コンサルタンツ協会)と協力して、従来より若手コンサルタンツ育成のための農業実践研修を開催してきました。2年間にわたり、野菜の播種育苗、栽培管理などの圃場での作業を中心とした研修を4回開催しています。昨年(平成26年)12月には、JICA(独立行政法人 国際協力機構)の筑波国際センターにおける研修(手押し水田除草機試作)が開催されました。平成27年度はJICA、ADCAそしてNPOイフパットの3者による研修が計画され、第一回として「稲と野菜の病害虫診断」が7月14日、15日の2日間実施されました。当NPO法人は研修実施のための講師派遣と必要な研修資機材の準備手配を担当しています。第2回は9月に野菜の播種育苗研修がやはりJICA筑波の圃場施設を活用して開催される予定です。本会員活動報告で、講師を担当した匠原監一郎技術顧問に研修の概要を報告していただきます.

 

                                                           平成27年度第1回ADCA農業実践研修

                                                             ―稲と野菜の病害虫圃場診―                                                                                                                                    

1.講師        匠原監一郎  NPO法人イフパット技術顧問 

2.研修日時・場所  平成27年7月14日・15日 JICA筑波(TBIC)研修棟、実習圃場

3.受講者       ADCA関係5機関 17名

4.研修内容   

初回の研修目的は、農作物に発生して被害をもたらす野菜や稲の病気(および害虫)とその防除対策の概要を理解していただくことであった。   研修では講師がJICA筑波で8年6ヵ月間、延べ400余名の研修員に対して行った講義と実習用に作成・改訂した資料を基にして、できるだけ簡潔・明瞭に解説するように努めた。

 

研修初日は、リンゴとバナナを手にして「エデンの園でイヴ(エヴァ)が食べたのはどちら?」との問いから始めた。東南アジアを原産とするバナナの東西への伝播と病気(パナマ病、シガトカ病など)の発生経緯を話すとともに、19世紀半ばにヨーロッパでジャガイモの疫病がもたらした惨事を紹介した。病原糸状菌であるジャガイモ疫病菌の発見によって、ヒトを含む動・植物の伝染病が病原微生物に起因すると理解されるに至った歴史がある。これらの例は研修で使用する作物保護の専門用語に慣れていただくために示したものである。 野菜の病(虫)害の講義では、病原体の種類、伝染方法と植物体への侵入機構、発病要因およびIPM(総合的病害虫防除)コンセプトなどの基礎的事項を解説した。続いて、我が国と途上国の主要野菜に一般的に発生する病害とその病原体(菌の胞子やウイルス粒子)の写真を呈示し、症状が似ていても病名や病原菌またはウイルスの種類が異なることを説明した。例えばTBICのトマトに見られた萎凋症状(株のしおれ)であるが、実習用ハウスではフザリウム菌による萎凋病とスクレロチニア菌による菌核病、露地では白絹病(スクレロチウム菌)が発生し、それぞれ違う病原菌である。一方、同じフザリウム菌によるウリ類のしおれ症状はつる割病という。トマトをはじめ野菜類に世界的規模で蔓延したウイルス病として黄化葉巻病と黄化えそ病がある。一見して初期症状は似ているが、中・後期の病徴をはじめウイルスの種類も媒介虫(それぞれコナジラミとアザミウマ)も伝搬様式も全く異なる。実際の発病株が圃場にあるので、教室での講義はこれら2種類のウイルス病の説明までとした。

 

圃場実習ではジャガイモの疫病と夏疫病、加工用トマトの疫病と輪紋病、生食用トマトの白絹病の観察から始めた。両作物の疫病はフィトフソラ菌によるもので土壌伝染する。降雨によって土から跳ね上がった菌が下葉に感染し、水滴の中で遊走子を放出して茎葉を犯す。上葉まで達して株全体が黒くなって枯死する。ジャガイモの夏疫病とトマトの輪紋病はアルタナリア菌胞子によって空気伝染する。いずれも葉の病斑部周辺が黄色になるのが特徴である。ウリ科では露地スイカのたんそ病、ハウスではキュウリのべと病と生食用(非芯止まり)トマトに多発している黄化葉巻病を見ることができた。

 

匠原病虫害研修(野菜) .jpg

 

二日目の研修は「稲の病害虫」である。稲の菌類病も重要であるが、ベクター(媒介者)によって広範囲に伝染するウイルス病と伝搬様式の理解は欠かせない。そこで基礎的なウイルス学とウイルス病の特徴を話した。ウイルスの発見の歴史とウイルス粒子の形状、ウイルス病の症状、媒介者(虫)の種類とウイルス診断法、稲を主とした伝搬様式などである。ウイルスには球状、稈状、   紐状などの諸形状があり、内包する核酸にも一本鎖と二本鎖のRNAまたはDNAがあること、ウイルス病では全身感染して葉のモザイクや黄化症状、畸形が生じることが多い。防除対策を講じるうえでウイルス診断が欠かせない。電子顕微鏡検査や生物検定(接種試験)、血清試験、分子生物学的検査法などを紹介した。  

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稲の病害虫の講義では、主としていもち病をはじめ紋枯病・籾枯細菌病などをとり上げた。とくにいもち病では発生条件、胞子形成と飛散、稲葉上での胞子発芽と侵入などを写真を見ながら詳しく述べた。稲のウイルス病を媒介する重要な害虫にヨコバイ類がある。これと同類のセミ(シカーダ)を見せ、色と形が似ているために葉巻タバコをシガーと呼んだ、という話とともにウンカとヨコバイが伝搬するウイルス病とその伝搬様式(虫体内循環・増殖型、経卵伝染)を解説した。 ごく軽微な紋枯病の初発病徴を除いて、今年の水・陸稲には例年のような顕著な病害(虫)は見られなかった。しかし、いもち病に関する研修員の個別実験区では、感染初期から中期に至る典型的な病斑を説明することができた。 稲こうじ菌胞子を供試した検鏡実習では、手持ちのデジカメによる簡便な写真撮影法を紹介して二日間の研修を修了した。

匠原病害虫研修集合写真.jpg
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