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タイ国で、これまでに立ち上げた2つの事業を紹介します(伊藤信孝)

NPO法人IFPaT会長
現在、チェンマイ大学客員教授としてタイ国に在住しています。今回、これまでに立ち上げた2つの事業を紹介します。

● 3大学国際ジョイント・セミナー・シンポジウム (図1)
本事業は1994年国際化も未だこれからと言うときに立ち上げたものである。日本国際教育協会(IAEJ)への事業応募が認められ、タイ(チェンマイ大 学)、中国(江蘇大学)を招聘して三重大学で企画・開催したものである。以来20年、毎年上記3大学が順番でホストとして開催してきたが、昨年は新しくイ ンドネシアのボゴール農業大学がホストとなり開催された。共通のテーマは「人口・食糧・エネルギ・環境」で副題として「世界におけるアジアの役割」となっ ている。きっかけは上記IAEJの事業公募への応募であるが事業継続には相手大学がいなければならない。かつてのJICA 研修員が母国に帰国後、学部長 補佐の職階にあったので、話しは円滑に加速した。人材育成の重要性を再認識させられた。
さて、現在は国際的にも、グローバルにもエネルギ・環境問題が注視され、緊急対応問題として注視されている。上記4テーマは話題になっている、あるいは話 題になるであろうから羅列的に取り上げたのではない。 年間1億人で増加する世界人口がこのまま増加の一途を辿ると生きるために食糧増産が必要となる。世 界的に農業生産に従事する人口は約20%であるから食糧増産には機械的倍力装置を動かすためのエネルギが必要となる。しかし主たるエネルギ源は石油であ り、化石燃料の大量消費は環境問題を引き起こす。従来の生態系維持が人類の経済活動により循環社会を構成できなくなることを説き、しかるべき対応を学生に 考えさせ、英語で論文発表させる企画である。よくも20年も前からこのような事業を企画立案したとの賞賛への賛辞もあれば、参加大学数が常時3大学を超え ているため、事業名を変えてはどうかとか、ロゴの作成ばかりに固執し事業の中身を全く理解せずに今でも委員会レベルで論議している大学もある。事業への理 解・対応へのレベルの低さを露呈し、かつては世界をリードした日本の急激な凋落を印象づけ、そうした大学で育つ若者の海外離れがその悲劇的な裏付けになっ ている。国際化・グローバル化に向けた大学教育の対応の低さ(あるいは遅さ)に目を覆いたくなる。
さて本題に戻るが、本事業では主役は大学生で、彼らがこれら4課題(グローバル・テトラレンマ、地球規模の四重苦と言う)について論文をまとめて発表し問 題点認識の共有、解決策の共同探索、大学間の意識レベルの共有と向上をめざす。事業の開期中はホスト大学が最寄りの空港までの送迎、宿泊、食事など全てを まかなう。参加大学(協定大学)は入国すると出国までの一切の費用負担はない。基本的に何の出費もなく事業参加を終える事ができる。基調講演では主として 大学の教員が世の中の現状と動向を説き、学生達が学び、知識として問題解決のヒントとする。参加への義務は英語による論文発表と質疑応答に耐え、事業終了 時の報告書の提出である。大学・学部によって単位認定もある。国際的友好・相互理解の場としてのパーテイ、ワークショップ、史跡、教育的機関や研究施設、 企業見学等のプログラムに加え、国際的センスを身につけるべく講演発表、公式行事でのフォーマル・スーツの着用、公式代表としての挨拶、講演発表と資料作 成技法の習得とともに役割に応じた責任感、協調性、指導性の育成、礼儀マナーやエチケットの習得を教育し、文字通り「グローバル世界に貢献できる人材育成 を目指す」事業で、修了式典では参加者各自に参加修了証明書を発行し、優秀な論文発表については特別に賞を用意している。過去19年間の本事業への延べ参 加学生数は1500名以上にのぼり、アジアに巣立っている。三重大学(伊藤)が3大学を母体に立ち上げたが、現時点では6~7大学が常時、最高時には協定 大学も含め23大学の参加を見たこともある。すでにかつての参加者の中から大学の学長、副学長等の要職についている者も少なくない。第20回が2013年 10月28日から11月2日に三重大学がホストで開催予定である。写真 1は昨年10月にインドネシアのボゴール農業大学が開催した同事業での筆者と学長 の出会いが地元新聞に掲載されたものである。

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写真 1 インドネシアのボゴール農業大学学長と挨拶 (地元紙)

● 国際インターンシップ
日本の大学が独立行政法人化になる数年ほど前より、学生への現場での実践キャリア・アップの観点から、国内でインターンシップ事業の立ち上げが始まった。 送り出す大学側と受け入れ側の企業側の認識や条件の相違を考慮し、行政からの支援も示された。基本的に受け入れ側の責務は「学生受け入れが臨時雇用の労働 力ではなく、学生への有益な知識や実務レベルの教育プログラムを用意し、ある期間で修了させ、評価して大学に戻す」のが一般的インターンシップである。企 業にとっては特別のプログラムを別途用意し、特別に教育する人員を割り当て指導するのであるから、通常業務以上に出費や持ち出し負担が掛かる。利益を追求 する企業にとってあまりメリットはない。強いて言うならば行政や大学へのスキル・アップ協力による社会貢献と言うことである。しかし一方では、この期間を 通じて受け入れた学生によっては、企業の評価が高く優秀な人材発掘の機会になる可能性もある。日本企業の多くは海外進出を余儀なくされ、大企業と言えども 社員派遣時には事前に相手国事情、文化、慣習などについて一連の研修を3ヶ月ほど行う事を耳にした。ならば学生時代にそうした事を経験させておけばよいの ではと考え、タイの6大学との間で国際インターンシップを立ち上げた。タイの工業団地にある日系企業を訪れ、その可能性を探したが2000年当時の企業の 反応はいまいちであった。2006年にタイの2大学から2名を三重大学が受け入れ、紹介した企業で2~3ヶ月研修を依頼した。逆に三重大学からの1名がス ラナリー工科大学を通じ1ヶ月間日系自動車部品企業で研修した。タイの大学では一般に学生に45日間のインターンシップ研修を必修化している。国際化・グ ローバル化を考えれば専門分野の現場での知識と英語によるコミュニケーション能力は極めて必要かつ重要で、特に日本の学生のそれは桁違いに低い。在学中の インターンシップ事業参加で全ての学生がそうした経験を有しているなら、卒業生への求人や大学評価も高くなる。加えて研修で知り合った若者同士がいずれ次 世代のパートナーとして友好・相互理解を発展させる事は間違いない。事業開始当初は航空運賃程度を支援していたが現在ではその支援もなくなったと聴く。大 学の支援事業で参加可能と言うことになると、理系に限らず文系も安易に学生を送り出すようだが、当該学生のモチベーションが低く、派遣に先立ち危機管理や 相手国事情についての事前研修もせず、大学の評価向上のみに向けた実績作りの域を出ない姿勢も多く見られる。国際交流の原則がわかっていないのではと懸念 されるので、ここに明記したい。考慮すべき条件は次のようである。
1)    事業は一方通行でなく、双方向交流であること
語学研修の多くは相手国大学にとってのビジネスである場合が多い。米国の大学では夏休みになると1週間おきに日本の大学から語学研修の大学生が押し寄せ る。参加学生が単位不認定で帰ることはない。そんなことをすると翌年から参加者が減る。ビジネスを自ら悪くするようなことはしない。反対に相手大学から日 本語や日本事情を学ぶ学生が来るかと言うと皆無である。主要な原因は英語での講義が用意されていないからである。数科目程度は英語での講義があっても日本 語科目を修得しなくても卒業・修了が可能な英語での講義数をオッファーしているコース、学科、学部はG30 プログラム認定の大学を除けば殆どない。自前(オリジナル)で、独創的、実践的で有益な事業が日本の大学では極めて少ない。インターンシップ事業も派遣と 同時に受け入れも行い、派遣・受け入れ両大学と受け入れ機関(企業)を交えた4者の連携が必要である。受け入れだけに固執すると Bi-lateral, Interactive, Mutual な事業という概念から外れ、実績評価の向上のみを図るみせかけ事業と認識されても仕方がない。
2)    グローバル言語は英語である。語学を専門とする交流事業を除き、基本的にグローバル言語は英語とすべきである。大学間交流、覚え書き締結において、未だに 学位取得を目指した交流学生の論文は「母国語でも可」とする条文を目にすることがあるが、何が為の国際交流事業なのかが理解されていない。英語圏でない相 手国大学の論文審査に参加しても言葉がわからないから内容を理解できない。そのために学位取得に向けた論文投稿を国際学会誌へと義務づけている。
3)    拠点大学として生き残るには「国際的 International」、「研究大学 Research university」の2つがキー・ワードである。タイ政府は最終的に総数9つの拠点大学育成を計画していると言う。現時点で4~5大学は既に認可され ている。独法化大学人の意識変革が強く求められる。
4)    およそ交流事業と言うからには単位互換、認定が原則である。いかなる事業も、評価し最終的に単位認定をして記録に残すのが学生のモチベーション・アップと 意欲の持続性維持に基本である。新卒大学生の就職採用率の低さを考えれば、評価と単位認定は事業の種類に関わりなく記録として残す必要がある。
5)    アウトプットよりアウトカムが重要。実施している活動量以上にどれほど有益な結果を生み出したかが評価のポイントである。

2)ギャラリー(トピックとして広く一般に紹介したい写真を解説付きで掲載)
   
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図1.アセアン地域大学の工学教育コンソーシアム結成宣言               
於:インドネシア、ボゴール農業大学 
    

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図2 チェンマイ市在住の外国人が集まりチェンマイの環境問題を考える
(2012年 10月)
(地元新聞記事)

● ASEAN ENGINEERING CONSORTIUM (図1)
2015年はAEC Asean Economic Community) または AU (Asian Union)が設立の年となる。工学系大学としてアセアンで何が出来るか? 何が問題か? そのための協力と協調にはどのような体制で臨むか? その成果の生かし方など、工学の分野でアジア共同体に果たすべき役割は何か?を討議し現状認識と知識情報の共有を目指す。写真はインドネシアのボゴール農 業大学で開催されたコンソーシアム設立宣言で集まったアジア近隣の各国からの参加者達。共通の問題探索と対応可能な技術と関係分野とマネッジメント体制へ の組織作りが始まる。GMS (Greater Mekong Sub-region、メコン河流域) に焦点を当てたプロジェクトに並ぶ大きなコンソーシアムである。世界の農地の3割を有し、世界の生産量の9割を作り出す米生産王国アジア、野菜・果物、そ の他の農業・生物資源生産においても、その豊富で大量の生産量が世界の食糧庫としてのアジアの地位を揺るぎないものにしている。急増を続ける世界人口に欠 かせない食糧の需要に応え、その供給を可能にする有望な地域である。なかでも今も未来もこの地域で農業が果たす役割は大きい。アジアは食糧・エネルギ・環 境といずれも人類が直面する、あるいは早晩遭遇するであろう地球規模の課題に生物資源の生産・管理技術で正面から立ち向かうことが出来る有望な地域の一つ でる。

● Chiang Mai International Friends(図2 地元新聞記事)
最近のチェンマイ市の問題の一つは「山の下焼き」から出る煙である。毎年3月から4月にかけて山の上の方が霞で見えなくなる日がある。環境にも良くない事 は明白であるが、産業としてツーリズムを掲げるチェンマイ市にとっては頭が痛い。観光客も遠のき、時には車の通行にすら支障となる。かつての焼き畑農業は 関わる農業人口も少なく30年ほどの周期で元の場所に戻ってくる持続可能な農業であったが、今ではそうしたイメージではない。しかし今でもタイの近隣国や ひょっとするとインドネシアなどの離れた所からもそうしたスモッグが押し寄せてくると言う人もいる。筆者は解決策の具体案を提言しているが、行政の対応は 極めて遅く、毎年問題になるが解決に至っていない。
 聴くところでは農家の中で森や山林を所有する農家が副業に椎茸栽培を行い、副収入を得るために森林の雑木や下葉を焼いていると言う。見つかるのを恐れ て、煙が見えてもなかなかつかめにくいと言う。なぜ山焼きをするのか?その理由はいろいろある。例えば焼却の方が簡単で容易、かつ安価で後処理が容易。ま た焼却により害虫や雑菌駆除と言った利点もある。しかし市の環境問題にまで発展すると制止せざるを得ない。そこで筆者の提言は次のようである。
1)    如何なる事があろうとも山焼きはさせない。絶対に焼かせないよう阻止する。
2)    必要なら行政が買い取り、職員もしくは相当の労働力を行政が手配し、刈り取りを含めて全量を買い取る。
3)    買い取った資源(雑木や下葉)は大学や処理機関に搬送集荷し、新資源としての製品を作る。例えば堆肥などの肥料や家畜の餌、あるいはエネルギ資源として販売・利用する。
4)    そうすることで買い取りに費やした費用を取り戻せる。問題は買い取り価格と新製品の販売価格が同じであれば問題はない。焼却は防止できるので問題は解決する。
5)    この案の具体的実施策の一つとして、大学の学生に雑木や下葉の刈り取りを経験させ、しかるべき監督兼指導員を同行させ教科としての単位認定につなげる。資源の新製品の開発と利用による普及を教育プログラムとして導入する。
6)    生物資源の利用には原則カスケード (cascade) 利用を心得る。これは「燃やす」と言う行為は、最後の最後まで行わず、どうしても利用が出来ない時点で燃やす事にする利用法である。カスケードとは上流か ら下流に水が流れる滝の例えに似て一気に下流へ流さず、下流に至るまでに出来る限りの利用を試みる事を意味する。
7)    問題解決には上記の方法と併行して農民への環境教育・研修が必要である。法整備による罰則の強化と同時に山焼きが如何なる問題を引き起こしているか、を認識させる事が必要である。なぜ自分の所有地であっても山焼きをしてはいけないのかを理解・納得させる。
筆者は上記の「チェンマイ在住の外国人の会」でこの案を提案発表すると同時に、市役所職員にも講演したが、未だに実施に向けた具体的行動は見られない。
 
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図3 トルコのアマスヤ大学での国際ワークショップ企画・実施(地元新聞記事)

● INTERNATIONAL WORKSHOP IN AMASYA, TURKEY (図3)
トルコは親日国の一つであり、イスタンブール、アンカラ、カッパドキアを知らぬ日本人は少ないと想像する。ボスポラス海峡に架かる橋はアジアとヨーロッパ をつなぐ架け橋としても有名である。アマスヤでのワークショップ企画・実施は人を介して知り合ったトルコ人との関係から一挙に実施が実現した。アマスヤ大 学と市(県)を上げての歓待に感激し、思い出深いワークショップになった。豊富な果物の生産など地方での農業生産の依存度は高く、日本との産業推進連携の 潜在的可能性も高い。記事の写真中央が筆者で、左右の2人がアマスヤ大学長と県知事と記憶する。講演発表を終えて街に繰り出すと、街を歩いていた老人の一 人が筆者の顔を見て、「新聞記事で見た日本からの人だね」と人なつこく話しかけてくる。このワークショップは日本の大学の農工学部関係者の定年退職を記念 したイベントとして実施したもので、日本とトルコ、特に地方都市アマスヤを知り、そこに住む人々との友好・親善を倍加し農工部門の産業振興発展・連携への 寄与、大学交流の推進を目指した。本NPO (IFPaT)でもタイのタマサート大学の東アジア研究所(2009) 、ブータン政府(農林省)後援による農業機械化国際ワークショップ(2019)、チェンマイ大学工学部(2011)、ベトナムのホーチミン市にあるノンラ ン大学(2012) での開催と場所を変えて毎年実施している。必ずしも農業機械・機械化にとどまらず、農村開発、バイオ・システム工学等幅広い分野での討議の場を提供し、 「地球規模の4重苦」克服に向けた場としたいと考えている。

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