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チェンマイ大学での貢献(1):伊藤信孝 チェンマイ大学客員教授・工学部

● これまでの経緯     
 2006年3月に三重大学を定年退職した後、公式には2年間工学部のリサーチフェローや国際交流課の客員教授として居候させて頂いていたが、2007年10月から三重大学にそれらの身分を残したままタイのチェンマイ大学からの招聘要請に応じる形でずるずると現在にまでその状況が継続している。当初は永居をするつもりはなかったが、在職時代からの関係もあり1年ごとの契約更改でいつの間にか6年ほどが過ぎた。
結婚と同じで、如何にこれまでの深い関係があったとは言え、離れていればそれほど問題はないが毎日顔を合わせるとなると、これまでわからなかった部分が徐々に出てきて、時にはこれまでの関係が円滑に維持できなくなり「こんな筈ではなかった」と言うことは良く聴く話である。当初は大学側も筆者を「本当にどのような人間なのか」との疑心暗鬼も手伝い、大学としてもいくらか慎重な対応が続いたと思われる。タイの大学では定年が60才であり、一般に定年退職した者の再雇用はしないと言う規則があった。タイでも大学の独立行政法人化により、現状はかなり変わりつつあるが、やはり「その人物が大学にとって如何に有益か」という点が雇用を決めるポイントのようである。言うまでもなく学部での雇用であろうと、いくらかでも公的にアロワンスを支給する以上は大学レベルでの承認を要する。大学レベルへの発議は学部レベルでは学部長がほぼ独断的に雇用を可能にする決定権を有する。客員教授としての本格的な雇用はこちらに来てから2年目からと記憶する。タイ政府は9つの拠点大学形成を考えている。現在4~5つの大学がその認定を受けているがチェンマイ大学は既にその中に含まれている。大学の独法化への移行は日本と異なり法的な強制力はなく、大学の意志に基づく。日本でも県立大学から国立移管するとなると教職員の身分や給与体系が変わるので教職員から賛否両論が出て、なかなか結論に至らない事があった。独法化で生じるそうした問題に未だに反対意見が多くて移行の意志決定が出来ていない大学もある。独法化大学としても、また拠点大学としてもリーデイング大学として生き残るためには「研究(大学)」と「国際(大学)」の2つのキー・ワードをクリアしなければならない。日本でも将来的に国立大学を研究大学と教育大学に区分すると言う話が話題になり、いくつかの大学の学長が本省に対し抗議したのを記憶する。いずれにしても国民の血税を予算として受ける限りは、如何に使い、どのような成果を挙げたかと言う報告の義務は当然であるが、見せかけや今流行りの言葉で言うパクリまがいの実績稼ぎが横行し、アウトカムの少ない事業を大げさに報告している大学もある。リーダーのやる気と責任を取る覚悟が大学の行方を左右する。                              
● 大学での講義    
チェンマイ大学は前・後期2学期制で1科目を担当すると週2回(1回の授業時間は90分)の授業がノルマであるから、単純に比較すると日本の大学では1学期に15回の講義であるから、ここでは2倍の講義時間である。筆者の場合、一般的に前・後期に1~2科目(1つは農業工学、他の一つは一般工学科目)を担当している。講義中の言語は英語(しか話せない)で行うため理解度は学部生では50%、修士では60~70%程度と思われる。初めての講義担当の時は90分の講義の内75分を英語で講義し、残り15分をタイの教員がタイ語でサマライズする形を取ったが、今では講義が全て大学院担当になり全てを英語で通している。
 講義の方法は全て自前で作成したパワーポイント資料で行う。ハードコピー資料は殆ど配布しない。講義を終えると授業で使用した資料は全て学生にファイルごとコピーさせる。ハードコピーに要する時間と資源の節約を徹底している。また一度配布した資料の内容を自らが毎年利用出来なくすることで、常に新しい情報を入手して授業改善するべく自らに鞭打っている。出席は毎度確認表を用意して必ず学生に署名させる。筆者は一般に大学での講義については、出席率を重視しない主義だが、授業での言語が英語であるから、学生は出席していないとその理解度の低さは推して知るべしである。したがって講義の内容は理解できても英語がわからないから答えを英語で表現できない為に試験結果が悪いのか、あるいは講義内容を全く理解できていないので試験結果が悪いのかを確認する為に、出席を必ず確認している。またレポート提出を頻繁に義務づけている。目的は英語授業の理解度の確認であり評価の機会を多く設けることにある。提出は期限厳守で、全て電子メールで送信・提出させる。この場合必ずカバーレターを付けるよう指導している。提出者の氏名、IDの明記による責任の明確化を徹底している。またメールでの提出義務化には1)手書きでは文字に癖があり解読できないし、時間が掛かる、2)提出の日時・有無を確認し易い、3)メールによる頻繁なコンタクトが英語での表現に親しみを覚え、教員と学生の距離を縮める、などの利点が有る一方で、他人の資料をコピーして提出できるなどの欠点もあるが、それをカバーするためにレポート課題の回数を多くしている。
 3年ほど前から学部長の考えで、筆者の仕事の内容がいくらか変わった。公式では無いが学部長アドバイザーと学部長は表現している。何をするのかと言うと各種プロジェクトへの助・提言、素案作り、日本を含む海外の大学からの訪問者との会合出席、シンポジウムや会議出席、多忙な学部長の不都合時の講義の補習、など所謂何でも屋である。大学レベル、学部レベルを問わず可能なイベントには全て参加すると言うのが基本的姿勢である。形式的かどうかは知るよしもないが、1年ごとの新規契約更改に先立ち1年間の活動をAcademic activity の報告として文書で求められる。内容的には教育・研究・社会貢献の3項目に分けて記載している。言うまでもなく教育では講義負担、研究室ゼミなど、研究では各種国際学会での口頭・論文発表を中心に、また社会貢献では各種行事参加での果たした役割、その他を記載している。ちなみに国際学会出席の機会はありがたいほど多くあり、学部長のご高配で多くのシンポジウムやワークショップ、年次大会に出席させてもらっている。協定校の間で開催のシンポジウムにも殆ど欠かさず出席し論文発表している。手前みそではあるが筆者は講義に関しては厳しく、講義に遅れてくること、授業中眠っていたり、私語で話をすることを厳しく制限し、他人への迷惑行為は極力しないよう注視している。遅れて入ってきた上記のような振る舞いをする学生には近くまで行って厳しく注意する。「話をするな、したいのなら外に出て行ってやれ」と厳しく注意する。レポート提出も期限厳守を徹底している。そのために出席表やレポートなどの記録を重視して評価している。もちろん講義中の積極的な質問、問いかけをする行為は評価を高くしている。この姿勢はその他の講義でも共通して対応している。                                  
  
講義1.jpg 講義2.png     
1学期を通じて最後まで学生の出席率が下らなかった講義。学生の数人がいつも教室の照明とプロジェクタをスタンバイして教員を待つ。(10月 2011 ~ 2月 2012)
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