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チェンマイ大学での貢献(11)

伊藤信孝

チェンマイ大学客員教授・工学部

 

  チェンマイでは春先になるとあちこちで山の下草焼きが行われる。農家が、所有する山林の下草を焼き払い、その後にキノコを栽培して副収入にすると言う。観光資源と環境資源が売りのチェンマイにおいてはあちこちで立ち上がる煙とスモッグで観光バスの通行が妨げられたりすることも珍しくない。何故焼き払うのかというと、余計な労働力を使わずして瞬時に大量の小木を含む下草を焼却して質量削減を図ることが出来る上に、焼却後の灰が肥料としての役割を果たす。さらに害虫や土中の雑菌を殺す利点があると言われる。しかし農家にとって都合が良くても市や県に取っては不都合である。当然ながら法的な規制をしつつあるが、現場に出向いて制止するレベルまでは難しいのが実情である。

   煙を見つけたという通報提供を受けて公的機関が駆けつけても既に燃え尽きているなど、規制・抑制が難しい。筆者はこの事態の解決に公的機関が対象農家を訪れ、焼却しないよう交渉し、妥結が困難な場合は公的機関が労働力を派遣して刈り取り、資源として買い上げ、大学や民間企業に委託して肥料や家畜の飼料、エネルギ資源としての新製品への開発可能性を探ると言う提案をした。公的機関は農家からの資源買い取りと労働力の派遣に経費を要するが、機関の職員派遣では余分な費用は不要である。資源の買い取り費用のみが一時的出費負担となる。しかし買い取った資源を利用して開発した新製品が販売出来ると、買い取り時に支出した経費は戻ってくる。うまくいけば買い取り時以上の利益を上げることが出来る。山林の焼却を規制し、新製品や幾多の利用法で新しく事業を立ち上げる事ができる可能性もある。かつては市の職員を前に講演もし、ブータンでの国際ワークショップでも論文発表したが、久しくその後の展開を聞くことはなかった。

 過日チェンライ県のドイ・ツン(Doi Tung)を訪れる機会があった。王室の保養所 (Villa)があるところで、管理が行き届いており、山上からの下界の眺めは格別である。同じチェンマイ大学の同僚が日系企業の支援を受けてプロジェクトを始めたと言う。これまでも2,3度誘いを受けたが筆者の都合で訪れる機会を逸してきた。同僚の一人が「あなたの考えを取り入れた対応をここで行っている」というのである。すなわち、どのようなことがあってもバイオ資源は焼却しない、徹底的に利用し、もしどうしても焼却するしか他に方法が見あたらない時にのみ焼却する。それでも発生した熱エネルギは無駄にせず穀物乾燥などに利用する。当地では端切れの木片を利用してショウガの収納箱を作っていた。また農家の焼却現場に急行し、焼却をさせないためのヘリポートも用意されていた。何度か訪問に向けた招聘への誘いを受けた背景には筆者のアイデアに対する感謝の気持ちがあったようである。有難い話である。いくらかでも社会貢献できたことに感謝したい.

 

                               11-2伊藤.jpg

図1 燃やさずに収集した小木の端切れを              図2 Doi Tungの火災防止ステーション

利用して造ったショウガ収納箱

(大きさは約縦x横x高さ= 50x30x30cm)

 伊藤11-3.jpg

図3 火災の監視、発見時にヘリポートと

   して利用される空間広場 (Doi Tung)

 


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