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チェンマイ大学での貢献 (15)

伊藤信孝

チェンマイ大学客員教授・工学部

 

 第22回3大学国際ジョイント・セミナー・シンポジウムが10月18日から23日まで中国の江蘇大学をホストとして開催された。本事業については既に紹介してきたが1994年に日本国際教育協会(IAEJ, 現在のJASSO)より支援を得て、三重大学がタイのチェンマイ大学、中国の江蘇大学との協力と合意のもとに毎年ホスト役を順番に交代して企画、継続して実施してきた事業である。第21回はチェンマイ大学がホスト大学として実施した。江蘇大学がホストを務めた前回、前々回と今回は全経費負担での招待を受けた。深謝の言葉に尽きる。筆者としては招待される以上は常にそれに見合うなにがしかの義務を果たしたいと考えているのでそのような趣旨を伝えてあった。

プログラムの関係上、過去20年の事業を回顧する意味で、本事業に関わった関係者による同窓会への参加が提示されたが、チェンマイ大学からの代表としての要請も加わりPlenary speakerを受ける事になった。昨年のチェンマイ大学での同事業での役割に次ぐ大役であった。折しもアセアン経済共同体の設立を1ケ月余に控えた時期でもあり、Era for Asia to play Her Role in the world (アジアが世界にその役割を果たす時代、平たく言うと「アジアの出番」)と題して講演した。主たる内容は ASEAN Economic Community (アセアン経済共同体)が何を主軸として経済を進展させ、如何にアジア地域の平和を安定的に維持できるかについての提案である。以下にその要約を示す。

 現在、人類は2つの地球規模の緊急課題と対峙している。「エネルギ」と「環境」問題である。世界人口はすでに70億を超え、毎年8千万人づつ増加し、この状況が続けば次に来るのは「食料問題」となる。アジアは将来的にも豊富な食料資源が生産可能なポテンシャルを有しているが「食の安全」に向けた品質管理はいまいちである。共同体が何を主軸として経済振興を図るかとなれば、最も結束しやすい産業セクターは「農業」である。アベノミクスはその成長戦略の中身が問われている。何をどのような方法で具体的にするかである。成長戦略の実施には農業・医療・環境分野での振興がわが国においても鍵を握る。わが国は高い技術を有するが資源はない。一方アジアは資源は豊富であるが技術は十分ではない。共同体推進成否の鍵は「協調と競争のマネジメント」にある。技術立国が持てる技術を、資源立国が資源を提供し、相互に補完し合うことでアジアを世界の「食料庫」に押上げ、安全で品質管理の行き届いた「アジア・ブランド食品」を創育成し確立することで共存を図る、と言うものである。具体的には技術立国の技術提供により「社会インフラ整備」と「食の安全品質管理」を技術移転と人材育成の両面から推進する。とりわけデータベースの共有に必要な衛星打ち上げ支援が効果的である(アジア農業成長戦略:農業食料工学会誌、第77巻、第4号、p. 226 - 231, 2015, 招待講演20145月同学会にて)

 上記のようにアジアは農業圏であり農業を基軸とした産業推進に資源立国と技術立国が協調・競争することでアジアの発展、平和の安定維持が期待できる。残念ながらタイにいると食料が豊富であるが故に世界の飢餓状況に気がつかない。また研究者は先端研究には敏感であるが、あたかも農業軽視が如き雰囲気にある。バイオ・エネや環境が如何にも先端的研究と言いたそうであるが、それらは元を正せば農業資源である。この部分に敢えて触れたがらない風潮がある。シンポジウムでの基調講演者も農業、あるいは農業という字句の使用を「意図的」に避けているようである。資源の豊富さが故の盲点でもあろう。

3大学国際ジョイント・セミナー・シンポジウムの実施が既に22年を迎えたことは上記した。地球規模の四重苦(Global tetralemma)の解決をテーマに「世界におけるアジアの役割」を掲げて議論を交わすのが本事業の内容であるが、「20年も経てば議論の積み重ねからそろそろ離れて、某かの具体的提案が出てきても良いのではないか」という視点で一例を提示したものである。ちなみにこの事業に参加した学生の英語力を見てみると相変わらず日本の学生のレベルは極めて低く、海外に出たくないという若者の姿勢を反映している。もちろんこれには教育が大きく起因している。筆者は交流事業に必要なものは主として2つあり、事業企画実施側(大学)の事業に対する情熱あふれる熱意 (Enthusiasm) と参加者側(学生)の 高いモチベーション (Motivation) でると位置づけている。如何にしてモチベーションを上げるかは学生自身の対応に大きく依存するが、教育によって高めることも可能である。最近の学生は感動を覚えることが少ない。だから感動しないし感動を知らない。しかしオファーする事業とそのマネジメントによって得られる結果は大きく違う。企画側の姿勢が結果を左右する。かつて筆者が経験したいくらかを紹介する。論文発表もさることながらホスト大学の学生達は、その日のプログラムが終了した午後8時以降に集まり、その日の反省会をし、その後深夜を過ぎても明日の準備に一生懸命体を動かしていた事を思い出す。フェアウエル・パーテイでは多くの学生が目に涙して別れを惜しみ、抱き合う光景も多々あった。予算を用意した事務サイドのトップから「学生がこんなにやるとは思わなかった、見直した」という言葉さえ出た。更に言うならば学生たちは感動に飢えているのである。感動を覚えることで生きる方向が変わる。自からが人生においてなすべきミッションを見出すことにも繋がる可能性もある。そう考えると事業の推進とその中身の充実は重要である。

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 図1 江蘇大学の歓迎アトラクション             図2 筆者と江蘇大学学長

 

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