チェンマイ大学での貢献(10)
伊藤信孝
チェンマイ大学客員教授・工学部
チェンマイ大学工学部に客員教授として籍を置いてから、約7年が過ぎた。その間にどのような事をしたか。ここでは主に所属機関であるチェンマイ大学をベースに如何なる社会貢献をしたかについて記す。筆者が果たした主たる役割は、以下に示すように
1. チェンマイ大学と相手機関の間に入って紹介を含め、社会連携促進を図る
2. 日系企業・機関の要請を受けてタイの大学との交流推進を図る(またその逆も実施)
3. 新たな新規事業を提案し、教育・研究に資すると共に連携強化を図る
の3つに区分されるが、主に仲立ち人として相手機関との企画・調整を図ると言う部分に要約される。幸いにしてタイの大学、政府機関にはこれまで構築した人的ネット・ワークが少なからず機能しており、円滑な行動の推進が可能であったことが大きな支えになっている。このネット・ワークはタイに留まらず、ベトナム、ラオス、カンボデイア、ミャンマー、インドネシア、フィリピンにも及び、年月の経過と共にかつて要職にあった友人・知人がめまぐるしく定年退職あるいはその任期を終えて入れ替わる時機を迎えていても、新たな人選では別の知人がその要職に就くと言う幸運にも恵まれている。以下の表に示す以外にも仲立ちを務め連携強化推進につながった例は有るが、その後の事業仕上げ・完成時に立ち会っていない案件については記載してない。
筆者がこれまでに関与した連携事業一覧
(訪問・視察・支援) |
チェンマイ大学(伊藤)の関与支援 申請事業 |
実施年月 |
日系自動車企業奨学財団 |
バン・メロン地区小学校建設 |
2009 |
日系自動車企業奨学財団 |
ファイ地区小学校建設 |
2010 |
日系企業支援財団 |
ロイヤル・プロジェクト・コミュニテイ支援 |
2010 |
クン・ユアム地区、ムアイトウ寺院内慰霊塔建立 |
日本クン・ユアム会 |
2010 |
M企業とタイの大学との共同研究交流 |
チェンマイ大学工学部 |
2011 |
M企業とタイの大学との共同研究交流 |
コンケーン大学工学部 |
2011 |
タイの8工学系大学・工学部 チェンマイ、カセサート、タマサート、チュラロンコン、キング・モンクット(L校)、キングモンクット(T校)、コンケーン、スラナリー工科大学 |
日系企業M社 (求人依頼と企業説明) |
2011 |
タイの8工学系大学・工学部 チェンマイ、カセサート、タマサート、チュラロンコン、キング・モンクット(L校)、キングモンクット(T校)、コンケーン、スラナリー工科大学 |
日系企業M社(求人依頼と企業説明) 応募学生の面接 |
2012 |
東工大、金沢大、京都大、京都工芸繊維大、立命館大、交流事業促進協議 |
チェンマイ大学工学部 |
2012 |
早稲田大学 |
チェンマイ大学教員の短期研修派遣(教育学部) |
2013 |
東工大、京都大、京都工芸繊維大、立命館大、三重大学 交流事業促進協議 |
チェンマイ大学工学部 |
2013 |
ランプン工業団地D社 |
チェンマイ大学工学部 |
2014 |
バイオマス・廃棄物処理現場システム視察(和郷園) |
チェンマイ大学・研究技術移転センター視察団 |
2014 |
インドネシア・ボゴール農業大学他1大学との交流推進 |
チェンマイ大学大学院研究科 |
2014 |
京都大学と大学間協定調印 |
チェンマイ大学 |
2014 |
日系麦酒醸造企業K社 廃棄。副産物処理施設視察 |
タイ国・エネルギ省視察団 |
2014 |
日本政府農林水産省(農研機構、中央農研、食総研)、・東京農工大 |
チェンマイ大学・研究技術移転センター視察団 |
2014 |
京都大学農学研究科他 |
チェンマイ大学・研究技術移転センター視察団 |
2015 2月 |
山岳少数民族が居住する地区での学校建設支援事業などについては、「なぜ中央政府の対応が難しいのか」、当初は疑問でもあった。筆者なりに現地を訪れその背景を探った末に、導かれた結論は以下のようである。救助・支援を要する彼らの中には隣国ミャンマーからの避難民も含まれており、長期のタイ国内滞在の間に出生した子供達の中には戸籍のない者もいる。子供のみ成らず、親も戸籍はおろかパスポートやそれに代わるIDも所持していない。友人・知人、隣人、あるいは同じように国境を越えて移り住んだ縁故関係に依存して、その日の生活を維持する貧しい人たちがいる。病気の時、事故に遭遇し救急処置を要する緊急時にはどのような事になるのであろうかと考えさせられる。種族ごとに離れていては協調は難しい。しかしそうした固い同胞意識が逆にコミュニテイ内の異族間の壁を作っているのも現実である。市民権、国・戸籍を持たぬ異国民への中央政府としての公的支援は自国民への支援が最優先すべきという国民感情を考慮すれば、極めて難しい。そうした状況下での支援となると民間支援財団への協力要請依頼に落ち着くのは致し方ない事であろう。まだまだ同じ地球上には想像を超える環境の下で必至に生きる人たちが居ることを、しかもすぐ身近に見ることに自らの無知を恥じる想いである。
図1.山岳少数民族のバン・メロン村にて、日系企業財団の支援で学校建設を実現するべ
く上棟式の準備のためコンクリート打設に励む村人と国境警備レンジャー隊員。