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チェンマイ大学での貢献(8): チェンマイ大学客員教授・工学部

本報告では、わずか1時間ほどの講義依頼を受けて講演した時の様子を記す。定年退職後7,8年も経ると、持てる知識や取り得た経験も時代の進展速度から見れば古くさくなってくる。いつまでそうした知的財産が有効に活用できるかは、しばしば不安となって現れる。

事務管理とはいささか異なり、教育する側の知識は絶えずUp to dateであることが条件である。そのためには「知識習得に対する積極的で継続的な対応姿勢」の堅持が欠かせない。昔流に言うと、この姿勢を欠く教員の講義ノートを称して「黄色いノート」と言われた。新情報が追加されず、数年から10年にも亘り同じ内容の講義資料を使用している教員に対する教育姿勢を評した言葉である。翻って著者が現在どのように対応しているかについては、これまでにもいくらか記述した。敢えて繰り返しここに再度要約する。すなわち講義資料はすべてパワーポイントで用意し、講義終了後はファイルごと学生に譲渡する。このことにより、全く同じ内容の講義は明年度にはしにくくなる。否が応でも新しい情報を追加しないと学生側で「今年も同じ内容を話している」というニュースが瞬く間に伝わり、翌年度の履修学生数が減る。彼らの反応は極めて敏感である。授業に対する熱意が必要であることは言うに及ばないが、内容が古いとそれだけでは対応できない。講義資料ファイルを丸ごと配布する事による利点は、1)ハード・コピー資料印刷の時間・紙資源の節約、2)持ち運び時の資料の軽量・コンパクト化、3)また学生・教員の双方共に新情報の追加・整理が容易、などである。

チェンマイ大学には 情報工学サービス・センター (Information Technology Service Center) と言う施設がある。研究室ゼミの院生から「電子回路実習」を始める前に、対象の学生(入学後1年半で、ようやく専門科目を学び始める)に、筆者がやってきた研究の紹介を交えて講義して欲しいとの依頼があった。もちろん学生を通じての依頼ではあっても、施設長、講義担当教員も当日挨拶にこられた。筆者はITについては苦手な部門の一つであり、講義応諾には若干の躊躇はあったが常に「与えられたチャンスに謝意と誠意を持って対応する」と言う筆者の基本姿勢に徹した。若干不安であったことは、聴講する学生がどの程度の知識を有しているかであった。電気の初歩からコンピュータの歴史的発展についてスライドで約20分、残り40分を動画で筆者の過去の研究(主として農業機械の自動制御)について紹介した。その内容のいくつかを以下に示す。1)自作紙テープによるコンバインのプログラム操行制御、2)同様の方式を用いたエンジンの長時間プログラム負荷試験、3)果実収穫ロボット(日本・米国の大学での研究紹介)、4)企業の研究紹介(田植機、コンバイン)。1時間と言う限られた時間のため過去の技術発展経緯に大半の時間を費やしたため、現在・未来については次期の機会に譲ることにした。学生の反応は極めて良く、即座に親近感を持って会話をすることが出来た。彼らの多くは筆者の話す英語を概ね理解していたようで、講義終了後の昼食時にも、彼らのいくらかは冗談をも理解していた。筆者の専門は農業工学 (Agricultural Engineering)、特に農業機械 (Agricultural Machinery, Mechanical Engineering) でIT ではないが、IT の農業分野への適用可能例として、彼らに過去・現状の可能性を知らしめる事ができたと確信する。講義の最後のまとめとして、「農業の重要性」を説いた。すなわち現時点で人類が抱える地球規模の課題は化石エネルギ、主として石油に代表されるエネルギの大量消費がもたらす炭酸ガスの排出が地球温暖化と言う環境問題を生み出していること、また年間8,000万から1億人の割合で急増する世界人口を見れば、食料問題が早晩来るであろう事は容易に予想できる。こと食料となると「生産・供給量」に加え「安全」でなければならない。上記3つの地球規模の課題に最も大きく貢献できる分野が「農業」であること、また異なる専門分野であろうと「農業に対する興味・関心を持つことの重要性を理解して欲しい」と言う趣旨であり、逆に異なる専門分野から「農業分野で何が出来るか」を積極的に考える姿勢が欲しい。 伊藤8-1.jpg 伊藤8-2.jpg 伊藤8-3.jpg 伊藤8-4.jpg

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