チェンマイ大学での貢献(9) :伊藤信孝チェンマイ大学客員教授・工学部
今回は、チェンマイ大学大学院研究科の国際交流事業の更なる展開にいくらか協力できたと言う話をしたい。本年4月初め頃かと記憶するが、研究科長からベトナムとインドネシアの研究期間との国際交流事業を推進したい、ついては協力をお願いしたい旨の依頼があった。
交流プログラムの対象領域は、1)農業、2)ポスト・ハーベスト、3)バイオシステムズ、4)食品工学、5)アグロ・インダストリーである。相手機関として候補にあがったのは、ベトナムではVIAEP (Vietnam Institute of Agricultural Engineering & Post harvest Technology), インドネシアではボゴール農業大学 (IPB) であった。筆者にとってはどちらも十数年を超える交流の実績があったが、研究科からの依頼はボゴール農業大学との連絡・交渉に当たって欲しいという希望であった。またこの大学以外に更にもう一つ別の大学との交流事業もお案じレベルで展開できればとのことであった。こうした背景から8月13日~16日の4日間でボゴール農業大学とバンドンにあるパジャジャラン大学(Universitas Padjadjaran)の2機関への訪問となった。幸いなことに、博士課程を修了して帰国しているかつての留学生、JICA短期派遣専門家として滞在中の知人、彼らが日本留学中に知り合ったかつての留学生、筆者が在職時より主導的に推進してきた3大学国際ジョイント・セミナー・シンポジウム事業を通じて、多くの人材が確実に成長している。学長や学部長から学科長、最近でも上記事業参加の若手経験者が「親しく、また暖かく」迎えてくれた。上記2機関に加えてインドネシア農業省の農業研究開発局も急遽訪問する機会を得た。ここでもかつての博士課程留学生の「逞しい姿」を見ることが出来た。交流事業を通じての教育効果をあらためて実感した。ボゴール農業大学については上記3大学事業に古くから参加、毎年10名ほどの学生を積極的に派遣してきた。驚くことに彼らの多くが英語でのコミュニケーションに極めて高い能力を有していた事である。その理由は何かがわからなかった。しかしその疑問はしばらくして解けた。選出され、派遣された学生は公式には大学派遣であるが、予算的には陰の支援者が居たようである。大学の上層部が含まれていない状況下で、地道に自己の信念に基づき学生を毎年派遣する事の苦労が如何に困難を伴うかは容易に理解できる。しかしそれだけに担当者は安易な選考をせず、責任を持って厳選した学生に海外派遣の機会を与えてきた。公平、公正、平等と言う名の下での選考は制度としては必要であるが、それが能力評価にまで混同されると逆効果となる。訪問中にも本年度11月初旬にチェンマイ大学で開催の3大学事業参加予定の学生達が集い、プレゼンの練習に余念がなかった。またIPB 訪問時に学長主催で招かれた夕食会ではかつての3大学事業参加経験者がMCをつとめ、挨拶にも来てくれた。訪問最終日の8月16日)には独立記念日を前に盛り上がるジャカルタ市内を案内したいと、これまた昨年3大学に参加した学生の一人が志願して同行してくれた。指導教員には頭の下がる思いである。教育の効果は1次遅れ系で表され、すぐに効果は現れない。セミナーやシンポジウムは短期間の一過性事業かも知れないが、企画者の事業に対する「ひたむきな思い入れ」が良き人材を産む。翻って日本人はどうか。「礼も言わなければ謝りもしない」のが先頃の日本人のアイデンテイテイになっている。もちろん「お世話になっても、また人に迷惑を掛けていても・・・・」である。