現地報告(2):ベトナム北西部の食用カンナ:西村美彦(タイバック大学)
日本ではカンナは夏の観賞用植物ですが、食用カンナは馴染みが薄い植物です。食用カンナ (Canna spp.) は,中南米原産のショウガ目カンナ科に属する植物で,肥大する根茎(リゾウム)を利用する種類の総称です。熱帯の食用澱粉として利用され、ベトナムには19世紀初期に導入され、インドシナ戦争後の食料危機に対応したとも言われています。
ベトナム北部における現在の食用カンナの栽培面積は約2万haとされ,標高300~1200mのハイランドで栽培が盛んで,ホアビン省およびソンラ省は栽培の中心省です。食用カンナはそのまま根茎を蒸かして食べますが、ベトナムでは根茎から澱粉を抽出して乾燥カンナ麺(dong)としてこれをビーフン(米粉)のようにして食べます。トウモロコシ、キャッサバなどの澱粉作物が増える中で、食用カンナは依然ローカル食材として重要なものなっています。栽培は地域によって多少異なりますが、春に植えて秋に収穫となります。ハノイの郊外では1-2月に植えて12-1月に収穫しますが、山岳地域では温かくなる3月頃に植えて寒くなる10月頃から収穫します。収穫された根茎は澱粉工場に集荷されて、ウェット澱粉にして麺工場に運ばれて乾燥麺が作られます。調査は2012年12月にベトナム北西部のフンエン (Hung Yen) 省コアイチャウ(Khoai Chau)県,ホアビン (Hoa Binh) 省ダバック (Da Bac) 県およびソンラ (Son La)省モクチャウ (Moc Chau) 県で行いました。また、コアイチャウ県では、カンナデンプンからの製麺工場を調査しました。経済が発展する中で市場性を持った澱粉作物は増加していますが、食用カンナやサゴヤシ澱粉等のマイナーな澱粉作物は減ってきています。市場のニーズと農家のニーズの接点をどこで見つけるかは今後の農業のあり方を考える上で重要であると思います。(2013年6月7日記)