会員活動報告
ホーム > 会員活動報告 > 現地報告:中国少数民族の循環型農業(永井 和夫)

現地報告:中国少数民族の循環型農業(永井 和夫)

 2009年6月に始まったJICAの技術協力プロジェクト「中国涼山州金沙江流域生態環境保全総合開発モデルプロジェクト」に農業技術/生産性向上専門家として5か年間関与し、今年(2013年)6月末に短期専門家としての最後の活動を終了することができました。 
 学生の頃、有畜複合経営が理想の農業であると教わりました。また、我が国の有機農産物日本農林規格(JAS規格)の第2条には「有機農産物は、次のいずれかに従い生産することとする。」として

農業の自然循環機能の維持増進を図るため、土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮させるとともに、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培管理方法を採用したほ場において生産すること(一部省略)。
 となっています。

 長い間開発途上国の農業・農村開発の仕事に係わってきましたが、理想的な循環型農業、有機農産物生産の本来の形を見たことがありません。ところが、本プロジェクト対象村の一つ、最貧困の美姑県洛覚村では正に絵にかいたような循環型農業が実践されていました。
 山から葉付の松の小枝を採取し畜舎の脇に山積み乾燥させる。乾燥して枝から落ちた松葉を、家畜の寝床に敷く。糞尿で汚れた寝床は畜舎から取り出され山積みされる。完熟するまで定期的に切り返えし作業が行われる。完熟した堆肥は畑に土壌改良材として、また肥料として散布され。ジャガイモ、トウモロコシ、ソバ、燕麦、カブ栽培に利用される。収穫した農作物は燕麦を除き家畜のエサに供される。燕麦だけはオートミルとして年長者のご馳走となる。ジャガイモ、トウモロコシそしてカブの葉も乾燥し立派な飼料となる。人間はこれらの余り物だけをいただく。
 この洛覚村にも既に貨幣経済は押し寄せています。少数民族の言葉しか解せない農民は出稼ぎに行くことすらできません。子弟の高等教育に必要な現金を得るためには、今まで以上に農産物の生産量を増やすしかありません。道路事情の良くない洛覚村では家畜を町に持って行き販売するのが唯一の現金収入です。しかし家畜優良品種を導入し、あるいは頭数を増やせば、必要となる飼料の量も増えますし、採草地も造成しなければなりません。そのため、飼料として効率の良いジャガイモやトウモロコシの栽培面積が増え、森林は伐採され牧草栽培用の畑となり循環型農業そして輪作体系が崩れてきます。そしてこの連作と増収を可能にしてくれるのが化学肥料であり、農薬です。
 2012年、県都から洛覚村に大型車の通れる道路が開通しました。県政府は洛覚村支援の為、同村の一部をジャガイモの種イモ生産基地に指定しました。県農業局に指定された地域ではジャガイモ栽培が義務付けられます。輪作によりパッチワーク状となっていた村の畑は一面のジャガイモ畑になりました。生産されたジャガイモは県政府が市価の1割増しで全量買い上げます。最貧困の洛覚村は政府の支援を受け、開発の道を歩み始めました。一方で循環型農業体系は崩れ始め、プロジェクトが目指していた参加型農業農村開発の小さな自立発展の芽も危ぶまれる状況にあります。

涼山1.jpg

           涼山2.jpg

涼山3.jpg

          涼山4.jpg

涼山5.jpg

           涼山6.jpg

涼山7.jpg

           涼山8.jpg
このページの先頭へ戻る