チェンマイ大学での貢献 (17)
伊藤信孝
チェンマイ大学客員教授・工学部
少数民族が住む山間地の小中学校併用の学校建設にチェンマイ大学が協力して携わったことは既に報告した。日系企業の支援を受けて木造建築がコンクリートの建物に変わった。チェンマイ大学が関連する学科の教員を引き連れ、現地調査をし、図面作成、予算見積もりを付して後者建替えの計画申請の手順を踏む。チェンマイより150km離れたファン (Fang) 地区はみかんの生産で有名である。幹線道路から山間地に入ると一気に急な坂が眼前に現れる。これまでは舗装がしてなかったので特に降雨後の通行は滑りやすく、危険さえ伴なった。
あれから約5年が経ち、流石に村に通ずる道路の大半は舗装され、通行はもちろん収穫した農産物の搬送も容易になった。ここに住む住民は少数民族のラフー(La Hu) 族でルーツは遠くチベットから移り住んだとも聞くが定かではない。学校建設以降もコミュニテイ建設支援のプロジェクトは継続している。かつては国王も訪れ開発支援のプロジェクトもあったが、途中で頓挫したり必ずしも計画は順調には進まなかった。いくらかでも開発進展が目に見えてくると村人も励まされ動きも活発になる。村には仏教徒とキリスト教徒が共存しそれぞれに寺や教会がある。村の課題は産業創成とその育成による経済振興とその安定化にある。現在の村のリーダーの将来像は農業振興、特に「食の安全」を見据えた有機農業による農産物生産、換金作物栽培の振興推進にある。高地である有利性を利しての茶やコーヒーの奨励増産、清い湧水を利用した高付加価値作物としての「わさび」の生産などを視野に入れている。
筆者はさらなる事業展開の可能性はアグロ・フォーレストリ観光ビジネスの展開と考える。農産業だけでは収入に限界があるからである。自然環境を保全しつつ如何に環境と共存していくかの重要性を現地参加型教育を通じて実施するのことで高い効果が期待できる。単に自然環境と宿舎の提供だけではなく、特に都会からの観光客には少なくとも綺麗なトイレ、高地であるため夜間の気温は低いので湯の出るシャワー、蚊などの害虫防御対策を施した高いレベルの宿泊施設の設置が必要である。ただ単純に、また自由に山間地をトレッキングすると言うのではなく英語ができるガイドの養成、農作物の播種や収穫、加工などの実作業に参加体験できるプログラムでの専門家育成、インターネットを利用した生産物の販売などに有効な広報活動の専門家養成など、基本的に自前の人材育成が必要となる。こうした人材は基本的に英語ができる必要がある。また学生の短期セミナーやシンポジウム、ワークショップの実施場所としての施設提供(もちろん有料)も可能性は高い。大学がこの面で協力し、時には人材派遣もできる体制が作り出せれば好都合である。国際交流は現地の人と一緒に生活するというだけでは国際交流とは言えない。それなりの専門知識(領域)を持ち、相手側に教示できるものがなければならない。重要な事は上掲の職種やその村での生活が基本的に好きな人でなければならない。最善の策は村民の中からそうした人材を育成できれば最高である。いわゆる都会人にとっては2,3日の短期滞在なら問題はないが、期間が3~5日を超えると不自由さや苦痛を感じるようになる。そうなれば逆効果である。参加必要経費もさることながら、如何に自然環境の中で生活することが素敵であり素晴らしいかを持続して教授できるかは、宿泊施設としての最低条件をどこまで満たせるかに依存する。また準備・オファーするプログラムの内容が如何に魅力的で内容に富み、少なくとも参加者に再度参加したいという気持ちを持たせられるかが鍵を握る。さらに自然環境との共生を全面に掲げる限りにおいては 如何に環境に負荷をかけることなく経済の振興と安定 (Sustainability) を堅持しつつ自然環境保全維持に徹しなければならない。
図1 ラフー族の村の入り口(玄関) 図2 建設中の集会所兼事務所
図3 村の子供や村民との歓談 図4 開村初期に導入植え付けされた茶樹